高齢者を狙う個人年金保険(下)~反省なし

 独立行政法人・国民生活センターは2005年7月に「高齢者に多い個人年金保険の銀行窓口販売に関するトラブル」という記者発表を行っている。

 それによると個人年金保険に関する相談が年々、増加しており、契約に際しては十分に注意するよう消費者に呼びかけた。02年度には銀行窓口分25件、証券会社窓口分4件だったものが、04年度には銀行146件、証券会社6件と増加傾向にあった。以降も相談は寄せられている。

 事例を見てみよう。05年3月に公表したものだが、78歳の母親が訪問販売で契約した個人年金保険についてその親族から相談があった。母親は取引のある銀行の新しい担当者が自宅に訪問した際、積立預金と思って契約したものが実は個人年金保険で米国通貨建てで変動リスクのあるものだった。

 来訪の翌日に気づいた親族が解約したものの、為替変動による差損分4900円を差し引かれたという。1日で約5000円の損をしたわけだ。銀行側は十分な説明をしたとしたが、センターが間に入ったため、4900円を返金して解決した。これなどは「長年の取引のある証券会社を信用して店舗に行った」とするNさんと同じようなケースだ。

 また、昨年6月の公表事例では亡くなった夫が取り引きしていた証券会社の外務員に執拗に勧められて定額個人年金保険を契約した80代の女性がいた。約500万円を一括支払いする契約で、その後に女性が病気で治療が必要でお金がいるため9日間で解約したところ、100万円以上も差し引かれると言われたのだ。これもセンターに相談した結果、全額を返金することで合意した。

 国民生活センターでは「個人年金保険は信頼している銀行や証券会社が窓口になっているため、契約してしまうケースが多いが、そもそも受け取りに年数がかかり、100歳にならないと受け取れないような契約もある。

 高齢者の方の場合は病気などで急なお金が必要になることがあるが、中途解約すると多額の手数料や差損を差し引かれることもある。それを考えると高齢者に個人年金保険を勧めるのは問題があると言わざるをえない」と契約する前に商品内容をよく理解し、周囲に相談することも必要と指摘している。  

 Nさんが勧められたM社は米国に本社のある金融グループの一員で、全国の第2地銀や大手証券会社などと軒並み提携して、個人保険と個人年金保険商品を販売している。M社の06年度上半期の業績ではなんと個人保険・個人年金保険の新規契約高が前年同期比約1.6倍と驚異的な伸びを見せ、収入保険料も個人年金の拡大により、約1.8倍にふくらみ1,000億円を超えている。銀行や証券会社は窓口を通じて販売することで多額の手数料収入を得ているのである。

 Nさんを勧誘した証券会社の梅田支店長からはNさんに対して、「この度は、年金保険勧誘時の当社社員に対応により、不信感を与えてしまったことにつきましては深くお詫びする」との文書が届いたが、自宅への不審な電話については改めて関与は否定、勧誘についても正当性を主張している。

 私の取材に対し同社の本社広報担当からは「お客様の個別の取引状況等については、誠に申し訳ないがお答えしかねる。なお本件について梅田支店における投資勧誘等は適切に行われており問題はない」との答えが戻ってきた。高齢者に個人年金保険を勧めることの不適切さについて、何の反省もないようであきれるばかりだ。 JanJan - 2007/4/15