高齢者を狙う個人年金保険の実態(中)~無視された「適合性の原則」

 政府が推し進めた規制緩和の流れに伴い、証券会社や銀行の窓口で販売を行える金融商品が大幅に拡大されている。個人年金保険も1998年から証券会社、2001年からは銀行でも保険商品の窓口販売が解禁され、以降に個人年金保険が取り扱えるようになっている。商品は金融機関が開発したものではなく、生命保険会社の商品を窓口で売るという代理店方式で、金融機関は手数料を生命保険会社から得て収益をあげている。

 個人年金保険商品は複雑多岐にわたっており、為替と連動して年金額の変わる変動型など投資性の高い商品も多い。消費者の中には個人資産を預金やリスクの高い株式投資に回すより、個人年金保険に回したほうが将来の保障にもなると契約するケースが多いという。前回に紹介したNさんの場合も証券会社がNさんの資産状況などを見た上で、個人年金保険を勧めようとしたものだ。

 顧客に見合った資産運用を勧めること自体は適正な営業活動であり、問題はないが、証券会社でコンプライアンス(法令遵守)部門の責任者をしていた大手証券会社OBは次のように指摘する。

 「Nさんの場合にすぐに気づいたのは81歳という高齢の方にリスクもある個人年金保険を勧めてはならないということです。証券会社はお客様の資金計画や投資方針、金融知識などを総合的に判断しながら取引を進めなければなりません。これは『適合性の原則』という金融商品取引ルールに基づいたもので、80歳を超える高齢者の方への勧誘は全くこの原則を無視したものと言えますね」と厳しく指摘する。

 金融庁は06年3月に保険商品における適合性の原則について有識者に依頼してまとめた報告書を公開している。それによると適合性の原則には広い意味と狭い意味があり、広い意味では販売業者は利用者の知識・経験・財産力、投資目的などに適合した形で勧誘・販売を行わなければならないとした。一方で狭い意味では「ある特定の利用者に対しては、どんなに説明を尽くしても、一定の商品の販売・勧誘を行ってはならない」と定義づけている。

 OBが指摘しているのは狭い意味での原則だ。「81歳というご年齢で、たとえその方にニーズがあろうとも勧めるべきではないと思いますね。年金保険商品は40代、50代の仕事の現役世代の方が国の年金制度に不安を抱いて契約するようなものです。それを80代に勧めようというのは考えられない。もしどうしても高齢者の方が契約したいという場合でも、家族や親族とも十分に相談した上で契約するのが良識的な証券会社の営業手法ではないでしょうか」とOBは話す。

 Nさんの場合は窓口に呼ばれて、契約を勧められたもので、まさに厳格な意味での適合性の原則を逸脱している。金融機関の個人年金保険については国民生活センターにも相談事例が寄せられており、次回ではその事例とNさんに対しての証券会社のその後の対応を見てみる。

JanJan - 2007年4月13日